場面緘黙治療法アイディア集8

8回目は「質と量の両面からのアプローチ」についてです。緘黙治療には、「ただ場数を踏む」(「量」のみ考える)というのは適切ではないように思います。そのため、「質」にも着目してみようというのが今回のテーマです。

【「質」からのアプローチ】

緘黙の症状が固定してしまっている人は、場数を踏んで人と話すことに慣れるよりもまず、思考を変えることが必要です。

臨床心理学で、「認知再構成法」というトレーニングがあります。

日常生活において、ある出来事(よくないこと)を体験したときに「状況」、「感情」、「自動思考」、「適応的思考」、「感情の再評価」という5つの項目に分けて出来事を捉え直してみるトレーニングです。

例)知り合いのAさんに挨拶をしたが返事が返ってこなかった場合

「状況」…休日に買い物をしていて同僚のAさんに会ったため、挨拶をしたが相手の返事がなかった

「感情」…怒り60%(一つの感情につき100%をmaxとします。自分が感じたものをなんとなく数値化してかまいません。)、寂しさ50%

「自動思考」…Aさんは私のことを嫌いなのかもしれない

「適応的思考」…私が休日服だったので気づかなかっただけかもしれない、何か考え事をしていたから気づかなかったのかもしれない

「感情の再評価」…怒り20%、寂しさ20%

上記の例に沿って説明していきます。

「自動思考」というのは、出来事を体験して真っ先に起こってくる感情のことです。場面緘黙など対人面に不安のある人は、対人関係の出来事に対して、この例のように「私が嫌われている」などと悪い方に考えてしまいがちだと思います。ですが、「適応的思考」として、「別の見方もできないだろうか?」と自分の中で考えることで、「相手には別の問題があっただけで、自分はそんなに悪く思われていないかも」と思い直すことができます。そのため、最初に感じていた怒りや寂しさなどのマイナスの感情は軽減されていきます。このトレーニングを続けていくことで対人関係で悩むことを軽減できるのではないかと思います。

このような質的なトレーニングを積んだうえで、「量」も考慮するのであればさらに効果が期待できると思います。

 

【「量」からのアプローチ】

「一日に1回は自分から話しかける」、「3回に1回は飲み会に参加する」などと機械的に数を決めてしまうやり方です。緘黙の人はいろいろなことを考慮してしまいがち(「○○さんはこういう人だからこの話はやめたがいいかな」「この状況でこの話していいかな」)だと思うので、機械的に数で目標を立ててしまえば動きやすくなるかと思います。

 

この「質」と「量」の両面からのアプローチを心掛ければ、緘黙症状が軽減されやすくなると思います。よく、「場数を踏めば治る」と言ってくる人もいるかもしれませんが、惑わされず、「質」も意識してみることが大切と考えます。

 

【参考】

フレデリック・ファンジェ『自信をもてない人のための心理学』(紀伊国屋書店、2014年)